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「上手医療かかり方」医療従事者インタビュー

「上手な医療のかかり方」医療従事者インタビュー

みんなの医療を守るために
医療従事者からのメッセージ

賀藤 均 院長

国立成育医療研究センター賀藤 均

1981年新潟大学医学部卒業後、東京大学医学部小児科学教室入局。トロント大学医科学研究所留学 、東京大学医学部小児科講師などを経て、2008年国立成育医療研究センター病院に赴任、2014年から2021年度まで院長を務めた。専門は小児循環器病学。併設する研究所と協力して健全な次世代を育成する医療を提供し、世界標準の小児・周産期病院をめざして、日々努力を重ねている。

Q.かかりつけ医をもつことは私たちにどのようなメリットがありますか?

賀藤先生

「“かかりつけ医”という言葉はありますが、それは何かというと、気軽に自分の体調について相談できるお医者さんということだと考えています。病院に勤めているお医者さんでもいいですし、クリニックのお医者さんでも構わないのですが、多くの方にとってはクリニックの先生になるのだと思います。クリニックの先生の専門は内科でも内科以外でも、とにかく自分が不安に思っていることなどを気軽に相談できるお医者さん、それがかかりつけ医です。
例えば、熱が続いているというような場合には、かかりつけ医の先生に診てもらう方がいいですし、ちょっと疲れ気味というような場合でも、すぐに大きな病院に行くのではなく、気軽に診てもらえるクリニックに行くのがいいのだろうと思います。
ただ、日本社会で混乱するのは、病院の規模がすごくバラエティに富んでいること。普通、病院というと多くの皆さんは大学病院など細分化された大きな病院がトップの方にあり、それ以外には民間の50床、100床未満の病院がたくさんあると考えると思います。しかし、そのような小さな病院の先生もかかりつけ医になると思います。
機能的に、クリニック、病院という区別が日本ではなかなかできないのが現状なので、「かかりつけ医というのは気軽にかかれる相談できるお医者さん」であり、すぐに大きな病院、つまり細分化された病院に行く前に、何でも相談できるお医者さんへ行って相談してもらえれば、そのことは病気を見つけるには大きなメリットだと思います。」

上手な医療のかかり方事務局

「気軽に自分の体調や不安を相談できる“かかりつけ医”の先生がいることが、とても良いことにつながるのではないか、ということですね。」

Q.健康で病院を受診することがあまりないという場合(例えば健康診断などは受けているが、あまり病院に行く機会はないような方)もかかりつけ医をもった方がいいでしょうか?

賀藤先生

「個人的な考えとなりますが、もしお医者さんに掛かるのであれば、かつそのお医者さんと気が合うのであれば、掛かるお医者さん(クリニック)は1箇所の方がいいです。風邪を引く毎に別のお医者さんに行くようなことはやめた方がいいと思います。健診で何か異常があり、相談したい時も同じお医者さんに行くのがいい。それは内科、外科、小児科でも結構ですが、とにかく一人の医者に相談して掛かるのがいいと思っています。そうすると、その方の健康の歴史が積み重なっていきます。かかりつけ医が持つ役目はそういうことだと考えます。」

上手な医療のかかり方事務局

「できれば一つのお医者さんに受診する、そのことによって経年的な情報もわかってくる、ということですね。例え健康な方(風邪をひいたときにたまにお医者さんに診てもらうという方)であっても、身近に相談できる先生をもつということは大切だということですね。」

Q.大病院に気軽に受診することが勤務医の負担となり、結果として重症患者の診療に影響を与える事はあるのでしょうか?

賀藤先生

「昔はあったと思いますが、医療の状況は地方と首都圏ではすごく大きな差がありますので、一概に言えるようなことではないと考えています。
東京に限ってみれば、皆さんがすぐに大きな病院を受診するということは最近では少なくなったと思っています。
これは、厚生労働省がすぐに大病院へ行くのではなく、クリニックや小規模病院のいつも掛かっているような先生に相談をして、紹介状を書いていただいてから行くのが望ましいということを一生懸命に啓発してきた経緯があるので、東京都内はその効果が出てきていると思います。何十年も前であればすぐに大学病院へ行くという時代もあったのだと思いますが、そのようなことで検査が二度手間になったり、どうしても一人の患者さんに費やす時間が限られてしまい、かつて “1時間待って3分診療”などと揶揄されたような状況に実際にありました。そういう意味では、患者さんにとってすぐ大学病院に行くメリットはないのではないかと思います。大学病院に行く前にきちんと近くのお医者さんに相談して、紹介状を書いてもらった方がいい。大学病院の方では、どういう病気かということをサマライズされたものを見ることで、どういう病気が疑われてどういう検査をしたかということ、また病気の管理についても知ることができる。大学病院に紹介状もなく受診すれば、最初から患者さんにいろいろ聞いて対応していくということでは時間が足りないので、その点は患者さんの期待どおりにはいかないところはあると思います。」

上手な医療のかかり方事務局

「首都圏と地方では医療体制に違いがあるということを前提として、首都圏においては、大学病院ですぐ診てもらうというようなことは以前に比べて少し減ったということですね。」

賀藤先生

「だいぶ改善されてきていると思います。」

上手な医療のかかり方事務局

「まずは近くのクリニックで受診する。そして必要があればそこで紹介状をいただいて、それをもとに専門性のある大学病院などの大病院で受診するというような流れが大切であるということですね。」

賀藤先生

「例えば、せきや熱が出たとします。ではそれを大学病院の何科で診るかという話になりますと難しいのです。単純に考えれば呼吸器科かもしれません。でも心臓が悪くて風邪をひいているのであれば循環器科なのかもしれません。もしかしたら膠原病の基礎疾患があって、それが肺の方に合併症として、出てきているのかもしれません。
単にせきというだけでは、どこで診ればよいのかわからないですよね。それが大きな病院の特徴なのです。すぐに大きな病院へ行ってしまうとそのようなことが起こる。どの科で診てもらったらいいのか患者さんも恐らく分からないだろうし、お医者さんもその専門性があるので、もしかしたらいろんなところですれ違いが出てくる可能性はあります。
そういった事を無くすためにも、まずは近くのお医者さんに行って相談していただいて、そのお医者さんがもしかしたらこの病気かなという判断をつけたのであれば、そこで適切な診療科を紹介してもらう。そうすると大きな病院へ行ってもきちんと適切な診療科にかかれる。医学が発展した現代では、患者さんの期待通りに、何でも診られるお医者さんなどというのはまずいないわけで、多くの場合、専門分野があります。お医者さんだったら何でも診られると思っている方がいますが、お医者さんはオールマイティーではないということです。得意、不得意があります。それによる不都合が起こらないようにするためにも、近くのお医者さんできちんと相談し、この病院のこの診療科ということで紹介状を書いていただくとスムーズで的確な医療が受けられると思います。」

上手な医療のかかり方事務局

「まずは近くのクリニックで受診する。それによってクリニックの先生から適切な診療をしてもらうほうが、大病院への連携がスムーズに運ぶということですね。そうすることで大病院、クリニックを含めた医療体制が円滑に進み、患者さんに必要な医療が届き、医療全体の多様性が整うということになりますね。」

賀藤先生

「診断治療にはそれぞれの役割分担があるということをご理解いただければと思います。その方がスムーズで適切な医療が受けられるということになります。」

Q.国立成育医療研究センターでは、近隣の患者さんや遠方から専門的な治療や判断が必要となりお越しになる患者さんもいらっしゃると思います。他施設との連携についてお聞かせいただけますか?

賀藤先生

「国立成育医療研究センターで、大まかに言えば、1ヶ月間に入院する患者さんが1000人いるとすると、800人は紹介されて入院する患者さんで、残り200人は救急外来から入院する患者さんです。救急外来にも紹介状を持ってくる患者さんがいますので、ほぼ8割以上は紹介されてくる患者さんということになります。
例えば慢性疾患の治療の流れの中でも重要な治療は成育医療研究センターで行っています。治療でも、すごく強い薬を使う場合と、安定時期であればそれ程強くない薬もあります。治療には大きな波があるので、すごく負担がかかる治療の場合は成育医療研究センターで行い、安定したら居住地域の近くの病院に戻ってもらい、安定時期の治療をそちらで行ってもらう。そこは役割分担をきちっとしています。すべての治療を成育医療研究センターというようなことは患者さんにとっても負担になりますから控えた方がいいと考えています。例えば手術だけを成育医療研究センターで行って、安定したら近くの病院で診ていただく。治療における役割分担は必要と思っています。」

上手な医療のかかり方事務局

「治療においての役割分担、そして患者さんがお住まいになっている地域のクリニックの先生方との地域連携も含めて、患者さんに適切な医療、治療を行っていくということですね。」

賀藤先生

「100%、成育医療研究センターで診るというようなことはないです。成育で診療する部分はこことここ、あとは患者さんがいつも診てもらっているお医者さんで、という役割分担をしています。」

Q.急な子どもの症状などにおいて、保護者が不安を持ちやすいということがあるかと思います。そのような場合に、保護者の判断の助けとなる子どもの症状の特性等についてお聞かせいただけますか?

賀藤先生

「子どもの症状の特性というのは無いんですね。子どもは自分の症状を的確な表現で話すことができないので、親が想像するしかないんだろうと思います。
せきであろうが下痢であろうが腹痛であろうが、大事なことは症状ではなく、この子が普段と違う、例えば元気があるかないか、食欲があるかないか、機嫌が良いのか悪いのか、顔色はいつもと比べてどうか、そういうことなんです。
それが小児科医にとっては最も重要な情報になります。絶対にこの子は普段の様子と違う、そのようなことを教えていただけると助かります。」

上手な医療のかかり方事務局

「保護者の方が普段みているお子さんの様子、例えば元気がない、食欲がない、機嫌が悪い、顔色がいつもと違う、そのような感覚を先生にお伝えすることが大切ということですね。」

賀藤先生

「そうです。せきや下痢の回数などよりも、そのような情報のほうがよほど重要です。」

Q.上手な医療のかかり方プロジェクトでは、急な症状への対処や医療機関受診の判断の助けとなる(#8000・#7119)電話相談の利用方法についてもお伝えしています。こういった相談窓口を医療機関を受診する前に利用するメリットはどのようなことがありますか?

賀藤先生

「医療機関を受診する前のメリットというよりも、一人で悩むくらいなら、相談して的確な情報を得た方が良いと思います。夜中の救急の場合など一人で考えても結論は出ません。だったら♯8000に電話をして相談したほうが良いと思います。それが正しいことだと思います。」

上手な医療のかかり方事務局

「♯8000や♯7119といった電話相談を利用して正しい情報を得るのが良いということですね。夜間などは特に一人で悩んでしまうようなことになりがちだと思うのですが、安心感を得るためにも電話相談を利用するといった行動は、国民の健康につながるということになりますね。」

賀藤先生

「そのとおりです。一億人以上の人口をもつ国で、このような救急の際に相談できる制度が整っているような国は、私が知る限りほぼありません。あったとしてもお金を取られるわけで、無料でこのような相談ができる制度はありません。皆さんにこういう制度があること知っていただき、有効に、気軽に活用してもらうのが良いと思います。」

Q.医師の立場からみんなの医療を守るためにメッセージをお聞かせいただけますか?

賀藤先生

「医療を守るためという大きな課題になってしまいますが、クリニックの先生の役目、小規模な病院の役目、大規模な病院の役目というのが各々あって、その役目を念頭にどの先生も頑張っています。何かしらの症状や発熱があったとしても、最先端の医療は細分化されていますので、患者さん自身でそれを見極めるのはなかなか難しいだろうと思います。ですから、最先端の医療を受けたいと思うのであれば、最初はゲートキーパーとなるクリニックや小さな病院のかかりつけ医の先生に相談いただいて、その後、適切な医療を受けられる専門の先生を紹介していただくというシステムで受診していただいたほうが医者にとってもいいし、患者さんにとっても時間の無駄にならずにすみます。さらに医療費の無駄にもならないと思います。
患者さんが大きな病院へ掛かっても不安になるのであれば、セカンドオピニオンを遠慮せずに主張することも大切で、言っていただければ今のお医者さんはきちんと対応してくれるはずです。それによりお互いにいい医療を目指すことができると考えています。」

上手な医療のかかり方事務局

「専門性が細分化されているという状況があるからこそ、まずは近くのクリニックなどのかかりつけ医の先生に受診していただき、その先生がゲートキーパーとなって、専門の先生をご紹介していただく、このようなことを私たち国民としても理解しながら医療機関を利用してくことが望ましいということを思いました。ありがとうございました。」